理研BSIニュース No.36(2007年6月号)

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インタビュー

田中 元雅

酵母に託すプリオン現象の解明

病因遺伝子研究グループ
田中研究ユニット
ユニットリーダー
田中 元雅


蛋白質の欠陥、あるいは異常は取るに足らないもの、つまり、通常の機能にはあまり影響を及ぼすことのない些細なものが多い。しかし、いくつかの「有害な」プリオン蛋白質のように致命的な蛋白質異常も存在し、それは最近、新たにBSIに加わった田中元雅ユニットリーダーがその理由を知りたがっている事柄のひとつである。田中ユニットリーダーの研究室は、これらの有害なプリオン蛋白質のうち、どれが致命的であるのかを識別するだけではなく、これらのプリオン蛋白質の増殖に対して、どのような要因が影響を及ぼしているのかを明らかにすることを目指している。


田中ユニットリーダーは、「蛋白質はただ一つの形状に折り畳まれるという点で理想的です」と言う。蛋白質の構成要素(アミノ酸配列)は、蛋白質がどのように首尾一貫して折れ曲がり、本来の動的形状へと折り畳まれるかを決定している。構造要素の変化は、それが突然変異であっても、あるいは損傷であったとしても、蛋白質がどのように折れ曲がるのかに影響を及ぼす。


これらの変化は、本来、細胞から除去されるべき、折り畳み異常な蛋白質を出現させる原因となる。これらの構造変化のいくつかは、他の変化よりも強力であり、その構造変化をもつ種が種となり、本来の正常に折り畳まれている蛋白質を、より悪質な折り畳み異常な種へと順繰りに変換させる。これがプリオン病の原理である。「注目すべきことは、本来の折り畳み構造が一つの形を持っているのとは対照的に、プリオン蛋白質の折り畳み異常の構造には複数の形があり、それら形が細胞障害にも関わっていることです」。


プリオン病とは、プリオン蛋白質が原因で引き起こされる、一群の進行性神経変性疾患であり、広範囲にわたる動物にとって致命的となる。この疾患には遺伝型のもの、感染型のもの、自然発生型のものなど、さまざまな種類がある。その原因については、引き続き議論の的となっているものの、プリオン蛋白質の異常に折り畳まれた分子種が、正常なプリオン蛋白質を感染型へと変換し、細胞障害を引き起こすことが分かっている。


田中ユニットリーダーは、生体外、生体内のプリオンの形や動きを研究することによって、どの形が伝染性で、どのような因子が異常な折り畳み構造を持つ有害な蛋白質を生み出すのかを知るために、酵母プリオンの系を用いてプリオンの現象を理解しようとしている。


プリオンの感染には、通常、異種間では伝染が起こらず「種間の障壁」が存在する。しかし、稀に種間の障壁を越える形をもつ異常プリオンが出現し、それが BSEからヒトへの感染を引き起こす原因にもなっている。異常プリオンがこの障壁を飛び越える理由を突き止めることも田中ユニットリーダーの望みのひとつである。プリオン伝搬の種間障壁の分子的機序は、プリオンがどのようにBSEからヒトへ感染するのかを理解する一助となるだろう。


プリオンの現象には解決すべき問題が数多くある。田中ユニットリーダーは、プリオンの現象に関するこれらの基本的な問題に取り組むにあたって、酵母のモデルシステムを用いている。言うまでもなく、プリオン病が観察されているのは哺乳類のみであり、酵母には存在しない。それにもかかわらず、なぜ酵母を使うのだろうか。


「酵母は、プリオンの挙動を研究するための優れた研究材料です。というのも、蛋白質のアミノ酸配列は異なってはいるのですが、酵母のプリオン蛋白質は哺乳類のプリオン蛋白質と同じような挙動を示すのです。実際、ここ最近では、酵母プリオンを用いた研究は、哺乳動物におけるプリオン研究の大きな推進力にもなっています」と田中ユニットリーダーは説明する。また、酵母はプリオン病に屈しないため、考え得るプリオン蛋白質の全構造の挙動特性を観察することが可能と思われる。しかし、酵母におけるプリオン現象を研究するさらに大きな利点は、遺伝子の連鎖と同様、プリオンの増殖の迅速かつ詳細な観察が可能になるという点である。いつの日か、これらの研究が、脳の損傷を招く可能性のある、蛋白質の異常な折り畳みによるさまざまな疾病の診断、治療を行うための手段を提供してくれるかもしれない。






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